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17 烏播(ウーハン)
「ウーハン」
(サトイモ科サトイモ属)熱帯アジアが原産の里芋は人類最古の栽培植物の一つとされており、現在でもポリネシアなどの南太平洋の島々では主食とされています。日本へは中国からと、沖縄からの二つのルートで伝来したといわれており、沖縄の「タイモ」、京都の「海老芋」など、それぞれの土地に根付いた多くの品種が存在しています。
奈良市高樋町で里芋の一種、「烏播(ウーハン)」を作り継がれてきた鳥山悦男さんをたずねました。
里芋は和風のお総菜に少し顔を見せる地味な存在という印象がありますが、かつては稲と並ぶ重要な作物として全国各地で大切に栽培されてきた歴史をもっています。 奈良でも「おん祭り」に振る舞われる「のっぺい汁」の食材に利用されるなど、ハレの日の食材として、現在でも欠かせぬ存在であることに変わりはないようです。
しかし、ジャガイモに「ダンシャク」や「メークイン」といった品種があるように、里芋にも多くの種類があることも知らなかったという方も多いのではないでしょうか。現在、スーパーの店頭で目にするものは限られた品種となっていますが、農村の自給用の畑に目を移すと実に多くの品種が栽培され、土地の食文化と共に受け継がれ利用されていることに驚かされます。
鳥山さんが農業をされている高樋町では、それぞれの家庭で性質の異なる里芋を育て、その用途によって品種が使い分けられています。その一つ目は「ズイキ芋」と呼ばれる赤い茎を食することができる「唐の芋(とうのいも)」。 二つ目は「土垂(どだれ)という早生の品種で,この里芋は早生といわれるお盆過ぎから収穫する事ができるもの。
そして三つ目が「烏播」です。 烏播は、元々台湾から導入された奈良県の奨励品種で、約半世紀以上前には宇陀や吉野の山間地を中心に広く作付けされた歴史をもっています。 高樋町では、今から半世紀以上前に、鳥山さんの父が持ち帰った種芋が広がったということです。 芋の形状は卵のような楕円形で、黒い茎の色が特徴です。 またムチンという粘り成分が多く含まれるため、長芋を思わせるような強い粘りは里芋の中では最高級といえます。 鳥山さんはこの里芋を作り続けてきた理由を「美味しくて、作りやすい」からとお話ししてくださいました。 食の流通過程での問題が多く明るみとなっている今日、自身や家族が喜ぶ顔を思い浮かべながら栽培がおこなわれていることも大和伝統野菜の大きな魅力の一つといえるのではないでしょうか。