16 片平あかね

片平あかね「かたひらあかね」
(アブラナ科アブラナ属) 片平あかねが広く知られるようになったのは、平成十八年に、奈良県が大和野菜の一つとして認証したことが大きい。同年の春、それまでは、その形が日野菜に似ていることから「ひのな」と呼ばれていたこの蕪の名前を決めるため、37戸、約140人の片平区民によって、あかね色に、「片平」の地名を冠した「片平あかね」が選ばれた。全国でも住民全員により名付けられた伝統野菜はめずらしい。

 それぞれの土地の気候風土で育まれてきた伝統野菜。その姿は個性的で色彩も多様です。大和の伝統野菜も例外なく、個性的な野菜たちが顔をそろえていますが、その中でもひと際目を惹くのが「片平(かたひら)あかね」と名付けられた鮮やかな赤色の蕪。四季折々の大和の伝統野菜とその物語を紹介していくこのコーナー。 今回は美しい彩りと、優しい響きの名をもつ山添村片平集落の伝統野菜である「片平あかね」を紹介します。
 この蕪のふるさとは、奈良県の北東部、三重県との県境に位置する山辺郡山添村片平の集落です。 片平あかねは、他の大和の伝統野菜の多くがそうであるように、戦前から片平の農家が、家族や近隣で食し、そして親戚、知人に贈る自給野菜として栽培されてきました。 美しいあかね色の外見と独特の風味が特徴で、この地域では三段階に分けて食されてきました。
 まずは蕪の直径が1センチ以下の「間引き菜」を、その葉の部分と一緒に塩をして刻み、酢と砂糖で甘酢漬けに。そして十一月頃になると地元では「タクアン」と呼ばれる大根型の蕪の部分を薄くスライスして同様に甘酢漬けにする 。酢を加えることによって赤色がより鮮やかに発色し美しい色の漬物となります。 最後は寒さが厳しくなる十二月に、すべてを収穫して、「長漬け」と呼ばれる直径が3センチ程度に成長した蕪と葉の部分を一緒に漬け込みます。 この長漬けは紅ショウガによく似た濃い鮮やかな赤色となり、こうして冬から春にかけた片平の欠かせない保存食ができあがるのです。それぞれに口に含むと、程よい歯ごたえ、甘酢の香りとともにこの蕪独特の風味が広がり、ご飯やお酒のともになります。採種は各々の家で優良と思われる色と形を備えた株を選んで自家採種が行われてきましたが、各家で微妙な個性があるといいます。 
 片平あかねは、その作り手、そして産地である片平集落にとっては特別なものでも何でもない生活文化の一部であり、食する人の喜ぶ顔を思い浮かべながら育てられる家族野菜なのです。